東海道四谷怪談
新橋演舞場で5月大歌舞伎を観る。
通し狂言の「東海道四谷怪談」。例のお岩さんの出てくる話。実は「四谷怪談」についてはあまり知らず、せいぜい京極夏彦さんの「嗤う伊右衛門」(もちろん、これはよく知られた話とは違っているのですが)を読んだくらいで。ほとんど白紙に近い状態で舞台を観たのだが、すごく面白かった。
歌舞伎は役者で観るものだと思っていたけど、これはシナリオがよかった。歌舞伎は面白ければなんでもありで、同じ登場人物の話なのに、幕が変わると鎌倉時代から江戸時代に話が飛ぶくらいのことは平気でやったりする。それに、封建社会の道徳観とか美学は現代人にはぴんとこないものもある。簡単に人を殺したり、自害したりするし。まあ、そういうお約束だと理解したうえでいつもは舞台を楽しんでいるんですけど。
だから、今回観て、歌舞伎でも現在人に納得できる心理描写をしているものがあるんだな、と驚きました。善人でも憎まれるような面を持っていたり、悪人にしても哀れさがある。それぞれの登場人物が心理的に追い込まれていく過程をちゃんと描いている。
一番、感心したのはやはり有名な「髪梳き」の場面。お歯黒をして髪を梳く、そこを長く見せることで女が怨念に取り憑かれていく怖さを表現する。それでいて、とり憑いて殺す瞬間は一瞬で終わらせる。見事だ。普通の作者であれば、幽霊がとり憑いて殺されるシーンを延々描写し、さらに殺される側、それを見守る側の嘆きを延々語らせるだろうな、と思う(現代の作り手でも、それはやりがち)。そちらの方がわかりやすいから。だけど、それをやればやるほど「怖さ」というものから遠ざかる。
さらに言えば「怖さ」というものを単純な霊現象と取らない深さがあるから、こうした場面を作り上げたのだろう。
古典の知識がないので、誰が作者なのか知らなかったのですが、四世鶴屋南北なんですね。歴史の教科書で名前を見るような、時代を代表する書き手なわけで、よく出来ていると思うのが当たり前か。もちろん、それを見事なシーンにしているのは、役者と演出の力あってこそだけど。
残念ながら通しといいつつ、全幕では長すぎるので後半が大幅カット。ばたばたとエンディングになってしまいました。昔は2日がかりで上演した芝居だというから、これは仕方ないことですが、いつか全幕観たいものだと思いました(なかなか今の舞台に掛かるのは難しいと思うけどね)。
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